とりあえず生きてみる!『マンチェスター・バイ・ザ・シー』。

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なにやらこの映画はアカデミー賞作品賞候補だったみたいですね。

大作ではないことは知っていましたが、いわゆるハリウッド的な構成の感動作品なんだと思っていました。

まるで違いましたw
この違いこそ、作品賞候補の所以だと思いました。

主人公はボストンで便利屋として生計を立てているんだけど、兄が突然死んでしまい、遺書で残された16歳の息子の後見人に指名されていたことを知る。
哀しみの中甥っ子と向き合おうとするが、主人公はあまりにも哀しく、辛い過去を背負っていた。。。

いやー、久しぶりにここまで地味な映画を観ましたね。
特に何も起こらないし、派手さも華やかさもないが、何かを訴えてやろうという強い意識も同時にない。

画面に映る世界が、本命とされた『ラ・ラ・ランド』とは真逆の世界w

ただ、地味なんだけど、それがまるで欠点にはなっていないのが本作の優れている点。
退屈なんて思わなかったどころかもっと観たいとさえ思いました。

この映画では父親にとってこれ以上ないというぐらいの圧倒的悲劇が描かれていて、主人公が抱えている問題は暗く、絶望的でさえあるのだ。

他者と関わろうとせず、内に篭り、気力を失い、短気で、どこか自己破滅的にも思える彼だが、気心の知れた甥っ子との関係がなんとか人間的な心を繋ぎ止めているような気がした。
性格はまるで正反対だが(主人公に起こった出来事を考えると仕方ないが)、そんな二人でもなんとかお互いを支えようとしていく姿が良かった。

子供はいないが「自分の身に同様のことが起こったら?」と考えさせられるし、何よりもストーリーと役者の演技があまりにも素晴らしかった。

多くの映画にありがちな「困難を乗り越えよう」みたいな展開にならないのが超好感。

ヘタに「再生」を謳わず、頑張ろうとせず、希望だ未来だと軽々しく訴えない。
ただひたすら主人公を静かに見守っていくような感覚で、この加減がちょうど良い。

人生に対して力尽き、惰性のみで生きる主人公を演じるケイシー・アフレック。
無愛想極まりない顔芸と周囲をドン引きさせる社会性ゼロの言動で、同情もさせるのに厄介なヤツだなとも思わせるという絶品の巧さw

充実した高校生活を楽しみながらも、反面父親の死を受け止められずに苦しむ甥っ子を演じるルーカス・ヘッジズも見事。

ラストについては否定的な見方や切ないという意見もあるでしょうけど、個人的にはこれこそ本来のあり方だと思いました。

すぐに前に進めるほど人は器用じゃないし、哀しみを忘れないのだ。

東北の震災や911で家族や友人を失った人たちも、主人公に近い居た堪れない心境で毎日をなんとかやり過ごしているのかもなんて考えてしまった。

困難を乗り越えよう?

「そうは言うが、現実はそんな簡単じゃない」

監督のそんな一言が聞こえてきそうでした。

決して明るい内容じゃないし、自分を許せない辛さ、人を失う痛みや哀しみが胸を突き刺してくる。
それなのに、鑑賞後はどこか清清しく、心は意外と軽くなってた。

ゆっくり焦らず、先のことは分からないが、とりあえず生きていくしかない。

いつか時間が解決する。
そう信じて。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』はそれでいいんだと言ってくれる。

地味でもオススメ度 100点満点!

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