心して観ました。
2011年7月22日に、ノルウェーの首都オスロ・ウトヤ島で発生した連続テロ事件を、『ユナイテッド93』『キャプテン・フィリップス』のポール・グリーングラス監督が映画化しちゃった。
実際に起きた痛ましいテロ事件が題材で、ポール・グリーングラスが監督となると軽はずみな気持ちでは観賞できないわけです。
体力も気力も十分必要だし、体調は万全じゃないと観ていられません。
すぐ体調不良になるオレなんかは、結構な日にちを要しましたw
いやー、覚悟はしていたけど凄絶な作品だった。
最初の30分がやっぱ圧巻です。
犯人が淡々とテロの準備から実行していく様子を映していくんだけど、ここら辺の迫力ってグリーングラスさんならではの演出の巧さ。
一瞬も目は離せないし、心臓がおかしくなりそうな緊張感で、テロの現場にリアルタイムでオレまで巻き込まれたかのような恐怖。
逃げ惑う人々がパニックの中でバタバタ撃ち殺されていく衝撃シーンが、ひたすら展開していくのだ。
いつものグリーングラスさんの映画だと、事件そのものに焦点を絞って描かれるのがパターンだった。
でも、今回は按配が違う。
最初の30分で事件が終わる。
犯人も逮捕される。
この映画の本題はそこからで、逮捕されても飄々とふてぶてしく振舞う犯人と生き残ってもトラウマに苦しむ生存者の青年を対比させる形で展開する。
群像劇としても秀逸で、生き残った青年の家族、友人、事件を防げなかったことを悔やむ政治家、犯人を忌み嫌いながら割り切って仕事をこなす弁護士などの心情を丁寧に積み重ねて、事件を多角的な視点で描くことに成功してる。
見事だと思ったのは冒頭30分のテロシーンの緊張感に対するクライマックスの裁判における証言シーンでの緊張感。
まったく異なる意味での緊張感であり、それは追い詰める犯人と追い込まれる青年という精神的な優位性、強者と弱者の立場が逆転するというスペクタクルが静かに起こっていく。
犯人への恐怖から目を向けることができなかった青年が、まるで銃口で射抜くように堂々と目を向けて証言する姿が印象深い。
ラストも素晴らしかった。
テロによって深く沈んだノルウェー社会が、悲しみの中で前進しようと決意する心強さに胸が打たれた。
監督の視点からは、ノルウェー社会への慎ましい哀悼と敬意を感じさせてくれた。
『7月22日』はテロという悲劇に向き合った作品だ。
7月22日はノルウェーがテロに攻撃された日かもしれないが、この映画は傷ついたノルウェー社会がそれでも勇ましく生きようと宣言する話だった。
文句なしの大傑作。