オリジナルのフランス映画『エール!』のリメイクです。
ほぼ筋は同じ流れを汲むんだけど、オリジナルでかなりキツめだった赤裸々なセックス事情と強めのコメディ色を抑えて、だいぶ上品に仕上がった代わりに、コーダという主題がより浮き彫りになっていた。
両親と兄が揃って聾唖なメンバーの中で育ってきた唯一耳が聞こえる少女が、得意な歌の才能を合唱部の顧問に認められて音大への道が開かれていくというかなり映画らしいドラマティックな話。
日常生活も仕事の面でも、両親に代わって外部とのやりとりを任されて、常に家族を優先してきた主人公が、初めて自分の将来と向き合わなければならない。その戸惑い。
歌うことで自分の道を切り開くことは、すなわち故郷を去り、耳が聞こえる自分を必要としている家族から旅立つこと。
好きな歌へ向ける情熱と家族への責任の間での揺れる心情を主演エミリア・ジョーンズが情感たっぷりに演じていた。
一家のビジネスを酪農から漁業、弟が兄に変更になったことで、聾唖者だけでは問題視される漁船運航という困難にぶつかったり、第一子として両親を支えてきた兄のプライドや妹思いの優しさも不器用ながらも見えてきたりして、コーダとしての人生が先にあった主人公の葛藤がさらに明確かつ丁寧に描き出されていき、感情移入がより深まっていた。
生まれながらのコーダでありながら歌を愛する主人公の切なる成長物語。
家族の面々が抱える複雑な感情、個性的な性格だが、主人公の歌の可能性を信じる顧問の先生も含めてキャラクター描写、何より重要な歌唱シーンもオリジナルより丹念に描き込んできていたのも評価したい。
一番理解して欲しい家族には届かない「歌う」という自己表現が、家族の間での共通言語であった「手話」という言葉と共に伝えられるラストの歌唱シーンはやはり感動的だった。
歌唱の途中で後日談を切り取ったモンタージュに切り替わってしまう演出がなされていたのが個人的にはちょっと残念な気持ちはあったが、英語による歌はよりストレートに響くし、何よりリメイク作として成功していた。
『エール!』からの脚色が凄く良く出来ていて、本当にいい映画だった。