『手紙は憶えている』
老人ホームで知り合ったアウシュビッツ強制収容所のサバイバーの友達から受け取った手紙。
そこには家族を殺した憎むべきナチスの残党の正体が書かれていた。
あまりにボケすぎてるクリストファー・プラマーさんが何事も忘れまくって、思い出して、またすぐ忘れてしまう不安定な老化した精神状態にもかかわらずに、手紙で指示された手順で、特定された人物を探し出して、暗殺に向かう認知症老人のハラハラ旅路。
マジでずっとハラハラしてました。
すぐ忘れてしまうクセに、旅自体は老人らしくゆったりとのんびりと展開するので、ぼんやりしてたら全部忘れるぞって思うと余計にハラハラw
寝て、起きるたびに案の定すっかり忘れてるので、マジで手紙頼りということで、途中で紛失しちゃったらどうしようと心配で仕方ない話になっていて面白かったですw
『手紙は憶えている』んだけど、プラマーさんの物覚えがあまりに悪いから、手紙の存在さえ忘れがちw
旅先で出会った相手を殺してやろうと勇ましく殺気立つのはいいんだけど、老人すぎて手先がブルブル震えながらのグロック構えが緊張感満点。
残酷な嫌な思い出リメンバーしちゃう最後は衝撃。
何十年も前の忌まわしい記憶が一瞬で襲ってきての悪夢のどんでん返しリメンバーなので、認知症の弱った老人には耐えがたいダメージなのだ。
ここ数年なんだかパッとしなかったアトム・エゴヤンさんにしては、久々に冴えを見せた傑作でした。
やっぱナチスが絡む話は当たりが多いねw
『女王陛下のお気に入り』
『聖なる鹿殺し』観た後なので、ヨルゴス・ランティモスさんがいかに性格ひん曲がりで、思いもよらないほど奇抜な感性の類まれ変態だってことはすでに承知済み。
18世紀、フランスとの戦争中のイギリス王室での権力争いや駆け引きという一見煌びやかで品の高そうな世界でも、やっぱりそんな奇特な変人の特性は隠せるはずもなく、立派に才能発揮していました。
気分屋で病弱で、劣等感の塊な不細工アン王女と優秀な右腕で、政治的アドバイザーの幼馴染の愛人、とにかく成り上がたい野心的で若く可愛い召使の間の欲望と嫉妬と罠と裏切り。
クセのありすぎる女三人のクセのありすぎる泥沼な泥臭いドラマが、どこかバカにした目線で軽薄な貴族どもの生態を見下す感覚がいかにもヨルゴス・ランティモスさんなのだ。
わざわざ見づらい広角レンズでの撮影手法や不協和な音楽がイラッと神経逆なでしてくるし、悪意と憐れみ、嘲笑が入り混じった人間模様の描写がなんかやっぱりヨルゴス・ランティモスさんらしく凄く嫌な感じするわけですw
だけど、映画としては嫌じゃないというか、嫌なのがもはや作品の味なので、ヨルゴス・ランティモスさんここにありき!ってことで喜びましょうw
情緒不安定で自己肯定感ゼロのアン王女の悲哀、卑屈さ、痛々しさを演じ切るオリヴィア・コールマンが壮絶に上手。
信頼すべき相手を見極められずに、愛情もはき違えて大切なものを失ってしまった後半、戦争下での厳しい政治的決断が一方的に迫られるプレッシャーの中で、ますます不幸に、ますます不細工になっていくオリヴィア・コールマンが凄すぎましたね。
足元の緩いアン王女の懐に付け入って、自分の都合のいい方向に操っていくエマ・ストーンの悪魔に魂売りっぷりというか悪魔そのもの。
口は悪いが、正直な性格で、毅然と物事に立ち向かうレイチェル・ワイズがなんか絶妙にカッコよかったw
スカーフェイス隠しのために片側にスカーフ巻いてのビジュアルがなんかダークヒーローみたいでセクシーw
そんなわけで、ヨルゴス・ランティモスさんによる不穏で毒々しい演出による醜悪でグロテスクな人間ドラマ『女王陛下のお気に入り』が最高でした。