とんでもない映画だった。
やっぱクリストファー・ノーランってロックンローラー。
当たり前とされてきた既成概念に一発ブチかます心意気がたまらんね。
「戦争は地獄絵図を演出しなければならない」という価値観を根底から覆す画期的なビジュアル・ショック!
こんな撮り方もあるんですねー。
個人的にはアリアリでした。
これって時系列が結構入り組んでいるようなので、俺はアホすぎて結構困ったw
途中で面倒なので諦めて、男らしく黙って鑑賞に臨みましたw
だけど、ちゃんと感動できた。
後半はもーね、なんか思わず「うぉーっ!」って唸りそうになったw
『ダンケルク』は、いわゆる映画的発明です。
戦争を描いているのにアクション的な展開がほとんどないので、きわめて地味なのが凄い。
戦争映画ってゆーと、ドカドカ撃ち合いして、ボンボン空爆して、肉体が木っ端微塵になってナンボみたいなところがある。
ちなみに俺が好きな戦争映画が『ブラックホーク・ダウン』と『プライベート・ライアン』というのが素晴らしいw
どちらにもトム・サイズモアがほとんど同じ役で出演しているのはただの偶然w
そんなわけで、どーしても「殺し合い」という先入観が強いので、『ダンケルク』はちょっと目からウロコな斬新さだった。
そもそも戦争映画として精神が違う部分に向いていて、ストーリーもあくまでも「撤退のための作戦」というのが面白い。
無事に帰るがための話。
そのため、マトモな戦闘シーンは皆無。
テーマを明確にするためにキャラクターもそこまで掘り下げず、会話も極力少なくなっている。
とにかくみんな戦いたくないのだw
「やってられねーよ」
そんな心の声が聞こえてきそうだった。
そう。
はっきりいってみんな元々普通の一般人なんだから、普通に生活したいに決まっているわけです。
不安と恐怖と焦り。
そんな心境が普通。
戦争なんて狂気の極みなので、わざわざランボーの真似事したいヤツなんてただのバカに決まっているのだ。
つまりトム・サイズモアが一人もいない世界が『ダンケルク』だw
スゲー怖いので必死に隠れようとするし、全体的に「とっとと帰国してーよ」みたいな姿勢が前面に出ていた。
特に商船に隠れた兵士たちが、ドイツ兵に撃ち込まれて怯えるエピソードが秀逸だった。
あまりに怖すぎるので、みんなが自分優先しちゃって「お前が行けよ!」みたいな感じで誰かを生贄にしようと必死w
「ひでーなぁ」なんて思いつつ、とっても人間的で納得してしまう見事な描写だった。
『ダンケルク』は「戦場から逃げる」という話なので、生き残ることが先決。
終盤で、無事に帰国した兵士の一人が「帰ってきただけだ」と後ろめたそうにこぼすが、どっかのオッサンが「それで十分だ」って言ってくれる場面がある。
この言葉こそが『ダンケルク』の精神を表現している。
それでいい。
「死なないでくれてありがとう」みたいなね。
さりげないが、泣けるシーンだった。
ノーランの演出はどこか印象的で、言葉少ないが、その分徹底されるリアリズムの力強さで容赦なく説得されてしまう。
ダイナミックな空中戦はまるで押井守の『スカイクロラ』のように風や音が迫ってくる臨場感だったし、いちいちショットが美しすぎた。
基本的にあらゆるショットとシークエンスが目に焼きつくように鮮烈で、美しかった。
そこにハンス・ジマーのスコアが天才的なまでにしっくり収まって、言葉を失うようなハッとさせられる瞬間が生まれている。
戦争映画でありながら、やはり演出とストーリーに絶妙な抑制が働いていた。
生き残った者と犠牲となった者、助けられた者と助けた者、戦争と平和。
そのすべてに対して深い思慮が感じられる繊細な戦争映画に仕上がっている。
音響と映像の迫力を考えると、IMAXで鑑賞すれば良かったと今更後悔したことも付け加えておきますw